佐々木 真(フルート奏者)
新座市片山在住。
京都大学理学部大学院物理学科修士。
在学中から活躍し1967年東京交響楽団に入団。
94年まで首席フルート奏者。現在日本フルート協会常任理事。大学講師。
現在、臨床心理学者の河合隼雄先生のCDを制作中です。
ことの起こりは、4年前、先生と私とで何か面白いことを、と企画した先生の講演と私の演奏を組み合わせたコンサートでした。この企画は好評で、今秋には第8回、第9回と回を重ねています。
先生は還暦前から趣味としてフルートを吹くことに取り組んでおられる、ということで第2回から先生のフルート演奏もプログラムに取り入れました。「本業で楽しみ、趣味で苦しんでいます。」という先生ご自身のお言葉通り、それはそれは真剣です。紀尾井ホールなど第1級の舞台での演奏、「こんなことができるなんて、人生何が起こるかわかりませんね―。」とよろこんでおられました。
何が起こるかわからないついでに、CDを作りましょう、との誘いに「そんなことが本当に出来るんですか。」とにこにことのりだしてこられました。
本格的レコーディングとなると、舞台での生演奏とは似て非なるところがあります。ぜひそのところを先生に経験していただきたいと思いました。
攻撃と守備の違いでしょうか。録音はうまくできたところだけを編集でつなげるから楽だと思うのは間違いです。うまくできなかったところを4度5度とやり直していくうちますます出来なくなっていくのです。
1回きりの生演奏でしたら、泣いても笑ってもこれ1回きりだと攻めの明るさで行けるところが、共演者、録音スタッフの視線の中、守りの暗さを背負い込み、自分の体が他人のもののようにいうことをきかなくなってしまうのです。
臨床心理学者の先生がどのようにそこを切り抜けていくか、私の密かな、ちょっと意地悪な楽しみでした。案の定「翌日には目の下に隈が出来て心配なのでお医者さんに看てもらった」との先生からの報告がありました。私の期待?通り丸2日の録音を無事?終え10月には発売開始の予定です。
いつも悠然と物事に動じられることのない河合隼雄先生、しかしこのCDではその先生の極限状態に接することができます。「隼雄ファン必聴の一枚」との評価を期待します。