■特集 博士の愛した桜


 高知に生まれ、晩年は練馬区大泉学園に住んだ植物学者牧野富太郎。理学博士の学位を得たのは大泉に越した翌年、65歳の時でした。博士の口癖が「小生は植物の生まれ代わりである」であったことは有名な話ですが、桜にも大変造詣が深く、最も好きだったのはヤマザクラ。博士にまつわる桜のエピソードを紹介します。

博士の夢
 僕が東京市長だったら東京を桜で埋めつくす。春はどこへ行っても桜が咲いている。花の雲で東京を埋めればよい。飛行機で見下ろした時、下界が一面の花の雲。それを見下ろして花見と洒落る人もいるだろう。ソメイヨシノは都会にふさわしい桜。10〜20qの桜のトンネルを作れば車で通り抜けながら花見ができる。それでこそ桜の国に恥じない桜の花の都というものだ…と、壮大な夢を語った博士。博士の描いた景観をイメージするだけでもウキウキしてしまいます。スケールこそ違いますが、約3qにわたる大泉学園通りの桜のトンネルは、博士の夢の片鱗をうかがわせるものかもしれません。

庭園の桜「センダイヤ」
 博士の家は西武池袋線の大泉学園駅南口から徒歩5分のところ。博士の書生をしていた人が大泉村役場に勤めた縁で当地に住むようになったようです。その邸宅跡が現在「練馬区立牧野記念庭園」として一般公開されています。2200uの庭にある博士が育てた約300種の植物のなかに数種類の桜が混じっています。特筆すべきは「センダイヤ」。高知市内の仙台屋という店の前にあった桜で、その幼木を博士が持ち帰り植栽したもの。もちろん博士自らが命名しました。ヤマザクラの栽培品種で、花の先端と縁がやや濃いためか開花時の樹容は美しいピンクを呈します。4月上旬開花。
 庭園内には早咲きのオオカンザクラやカンヒザクラ、3月下旬から4月にかけて咲くソメイヨシノ、ヤマザクラ、ウスガサネオオシマ、サトザクラ(タカサゴ)、ミシマザクラ、少し遅れて開花するサトザクラ(フクロクジュ)、ウワミズザクラ 、それに博士が故郷高知県高岡郡佐川町尾川で発見し、命名したワカキノサクラ(播種後2〜3年で開花し大きくならない)が。開花に合わせて訪れ、博士の愛した桜を一つひとつ観察してみるのも楽しいでしょう。
 
練馬区立牧野記念庭園
 ここだけは別世界のような静けさ。緑多い敷地内に、偉大な業績を生んだ書斎跡、遺品や標本を収めた記念館が併設されています。館前にあるスエコザサは、博士を支えた夫人を偲んで博士自ら命名したもの。〈花在れバこそ 吾れも在り〉の自筆になる碑富太郎のサクラ研究」「富太郎が描いたサクラ」として博士以外の画家をも含む植物画が紹介されました。今後の桜に因む企画にも期待しましょう。
入園・入館無料 
9時〜17時 火曜定休
練馬区東大泉6-34-4
03-6904-6403

博士と標本
 下の写真は1931年4月19日に荒川堤で採取したサトザクラの標本。研究による借金がかさみ、かけがえのない標本10万点を海外に売らなければならない窮地に陥ったとき「国家的文化資料が海外に流出」の新聞報道に手を差し伸べる篤志家が現れ、牧野の標本はなんとか救われました。博士の没後約40万点の標本は、都立大学(現・首都大学)に寄贈され、現在八王子の牧野標本館に収蔵されています。


博士の植物図
 人間業とは思えないほどの精緻な図。学術的ではあるものの芸術作品ともいえそうです。観察眼が鋭く博士の描写力には驚くばかり。特に絵を習ったわけでもないといわれるのに、これらの植物図やスケッチからは博士の桜に対する情熱が伝わります。桜の図は写真のヤマザクラ以外にもオオヤマザクラ、コヒガンザクラなどどれもみごとです。

博士が故郷に贈った桜
 ソメイヨシノがなかった高知に、博士は明治35年(1902) 数十本の苗木を送ります。それらは高知市五台山の竹林寺はじめ生まれ故郷の佐川町に植えられ、佐川では「牧野公園」として桜の名所になりました。

博士が書いた桜の色紙
左の2点は、博士が孫娘の卒業祝いとして病床で書いたもの。博士の胸中には最期まで「桜」が存在していたのかもしれません。
 櫻花 
  朝日に匂ひ  
     咲きにけり
 山桜 
  旭日に匂ひ
     咲きにけり

協力/練馬区立花とみどりの相談所 練馬区立牧野記念庭園記念館

<タウン>
石神井公園の「ねこフェス」 2/5〜17

石神井公園では捨てねこを保護するボランティア活動がさかん。駅前通りには「保護ねこカフェ」もあります。行楽やお買い物で石神井公園を訪れたら、この期間に配られるチラシをもらい、掲載マップを見ながらスタンプラリーを楽しみませんか? 各店を巡ると参加賞がゲットできます。ねこアーティストとして全国的、あるいは国際的に有名な作家たちも協力。練馬区美術家協会有志の参加もあり、より文化的なイベントとなっています。作品を見るには各店の営業時間内に。休日にはコスプレによるウォーキングアクト、ワークショップ、音楽ライブなども加わり、石神井の街を挙げてのビッグな恒例行事となりました。
※情報欄参照

<ゆめりあ>
みゆずメソンからのメッセージ 2/19

 「フクシマ原発事故」から5年が経とうとしています。5年という歳月は私たち日本人にとっては忘却に十分な時間なのかもしれません。しかし事故によってまき散らされた放射性物質は私たちの末裔何世代にわたって害を及ぼしかねないのです。このことを今一度思い出していただきたく、原子力がご専門の小出裕章先生(写真)の講演を企画しました。あの事故が遠い国でのことであったごとく「再稼働」を急ぐ声が聞こえます。初心にもどり5年前を思い出さなくてはなりません。音楽では、佐々木真氏のフルート、新垣隆氏のピアノの響きで心をリフレッシュしていただきます。日本の現状の危うい部分に目を向ける活力のもと
となることを確信いたします。(みゆずメソン佐々木康子)
※情報欄・広告欄参照

<催し>
だいこんブラス定期演奏会  3/13

2002年に大泉学園で結団した「だいこんブラス」は、学生から大人までの団員を擁する地域密着バンド。「奏者もお客様も一緒に音楽を楽しむことを大切に」してきました。第13回目の今年は、第一部吹奏楽曲の演奏、第二部は人気TV番組のテーマ曲、第三部は毎回好評のストーリー仕立て。病気の女の子に、お母さんが早く元気になるよう娘の好きなディズニーの話をする、それに沿っておなじみのディズニー曲の数々が演奏される…という趣向。30名にオリジナルクッキーが当たる「お楽しみ抽選会」も行われます。080-5516-9735 
※情報欄参照

<本>
『吼えよ 江戸象』 

 吉宗の命を受け、長崎⇒江戸354里。馬医豊安と長崎娘千代のお江戸道中が始まった。京では天皇謁見、美濃路では大名行列と鉢合わせ。果たして象は無事に江戸へ行けるのか…。熊谷敬太郎著 NHK出版より2/ 25刊行予定

<本>
『花につらなる−日本女子大のうた』

びっくりぽん!NHK朝ドラ「あさが来た」は大好評のようです。あさこと広岡浅子は日本女子大学の創立に尽力します。そこで日本女子大の学園詩史『花につらなる…』をご紹介。女子教育の黎明期から今日までを元朝日新聞記者酒井憲一氏が謳った文庫版の詩集です。
読むなら今!! ライン出版刊 \810(税込)
地元大泉の「ポラン書房」で販売。東大泉1-35-12 03-5387-3555




  

■ぶんか村エッセイ(96)

日本が誇る文字の文化
熊谷敬太郎(作家)


◆プロフィール

くまがい けいたろう
1946年東京生まれ。学習院大学経済学部卒業。広告代理店・大広勤務の後、雑貨製造輸入会社経営。著書に『ピコラエヴィッチ紙幣』(ダイヤモンド社)(第2回城山三郎経済小説大賞受賞)、『江戸湾封鎖』(幻冬舎)、『悲しみのマリア』『華舫』(NHK出版)など。




 武州押立村(府中市)の平右衛門が象の糞から造った薬「象洞」で大儲けしたという話を偶然知った。
『有徳院殿御實紀』(徳川吉宗の正史)には、大岡越前守が麻疹(はしかや疱瘡)に効くとお墨付き(保証)を出した記録もあった。「象洞」も本当の話で、漢方には牛の糞から造った「牛洞」もある。
 世に象を見た者のいない時代、この象は享保十四年(一七二九)春に長崎から江戸へ七十五日かけて歩き、日本中を歓喜の渦に包んだ。
象の通行する宿場と村々は、古い橋の修理や象小屋、飼葉の用意に追われた。橋の崩壊、象の崖下への転落、川での水死、妙なものを喰い、腹を下す恐れもあった。
なにしろ象は吉宗公へ献上の獣だ。宿場は打ち首も覚悟の象対策に追われた。村境では裃に紋付き袴で象を出迎え、その行列順や警固体制などが多くの村に文書として詳しく記録された。
 江戸道中、京都では中御門天皇に拝謁し、起宿(愛知県一宮市)では大名行列と鉢合わせした顛末も起宿の記録に残されている。
二月にNHK出版より刊行の拙著『吼えよ江戸象』は、街道の村々に遺された記録を参考に書き上げた小説だ。
江戸時代に寺子屋が普及し、「庶民までが読み書きできる」と長崎の阿蘭陀人らを驚かせたほど、日本は世界一の識字率を誇っていた。
現代はネット社会となり日本中至る所、読書よりスマホの社会となっている。
しかし、私は拙著を通して、日本の文字文化の素晴らしさを少しでも伝えることが出来ればと考えている。※特集面に関連記事



 
■ぶんか情報

大泉学園ゆめりあホール・ギャラリー
〒178-0063 練馬区東大泉1-29-1(大泉学園駅北口)03-5947-2351
www.city.nerima.tokyo.jp/
●歌声喫茶ともしびin大泉学園 2/17(水) \2000(歌集貸出\100) 950 昔懐かしい歌の数々を大きな声で歌いましょう 03-6907-3801
●小出裕章(講演)佐々木真(フルート)新垣隆(ピアノ)2/19(金) \3000 1500・1900 モーツアルトヴァイオリンソナタホ短調(フルート版)他 048-477-1313

練馬文化センター(ホール・ギャラリー)
〒176-0001 練馬区練馬1-17-37(練馬駅北口)03-3993-3311  
http://www.city.nerima.tokyo.jp 
●練馬交響楽団スプリングコンサート「春の夢・物語〜fromシェークスピア(-1616)」 3/13(日)\1000 1400 「真夏の夜の夢」「ロミオとジュリエット」
●第38回都立大泉高校・大泉高校附属中学校吹奏楽部定期演奏会 3/29(火) 入場無料 1800  03-3924-0318都立大泉高等学校

T・ジョイ大泉 シアター
〒178-0063 練馬区東大泉2-34-1(オズスタジオシティ4F) 03-5933-0141 http://www.t-joy.net  
●オデッセイ 2/5(金)〜 火星に独りぼっち。あらゆる現実が「生存不可能」を示していた。 出演/マット・デイモン ジェシカ・チャスティン
●エヴェレスト〜神々の山嶺3/12(土)〜 世界最大ベストセラー映画化!世界最高峰の地で撮影敢行したスペクタクル感動超大作!!出演/岡田准一 阿部 寛
●家族はつらいよ 3/12(土)〜 「男はつらいよ」から20年、待望の喜劇! 監督/山田洋次 出演/ 橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣

和光市民文化センター サンアゼリア
〒351-0192和光市広沢 1-5(和光市駅徒歩15分) 048-468-7771 http://www.sunasalea.or.jp
●オーケストラと日本の和″ユ 〜日本の魂をオーケストラが奏でる!日本の伝統が舞う!! 〜2/20(土) \2500 1600 ロビーコンサート有
●Sunazalea Cafe vol.9 マエストロ、お時間ですよ!3/8(火)\2200(ワンドリンク付)1400 身近にクラシックを感じる気軽な午後のひととき

その他のコンサート・展覧会・公開講座                    ●「ねりまと映画」映画誕生120周年企画〜2/21(日) 無料 900〜1800 石神井公園ふるさと文化館 初公開資料など 03-3996-4060
●女子大学創立の恩人-広岡浅子展 〜3/4(金) 入館無料1000〜1630(土1200)日本女子大学成瀬記念館(目白) 日月祝休 03-5981-3376
●なぞなぞ?ことばあそび!!-江戸の判じ絵と練馬の地口絵-〜3/21(月祝)\300 900〜1800石神井公園ふるさと文化館 03-3996-4060
ことばってたのしいな-木島始の詩と絵本〜3/27(日)無料900〜1800石神井公園ふるさと文化館分室(松の風文化公園内 03-5372-2572
●はじまり、美の饗宴展 すばらしき大原美術館コレクション 〜4/4(月) \1600 1000〜1800 国立新美術館(六本木) 火休 03-5777-8600
●「道の会」国立埼玉病院展示 2月「雛」 3月「桜」 国立埼玉病院(和光市諏訪2・1) 写真・版画・南画・書・アクリル画 090-6034-3845
●まちゼミねりま 2/1(月)?29(月) 受講料無料(材料費別途) 講座内容・詳細www.nerima-kushoren.jp/machisemi 03-3991-2241
●第28回ねりま漬物物産展 2/5(金)〜7(日) 1000〜1900 ココネリ区民・産業プラザ内「産業イベントコーナー」(練馬駅北口) 03-3995-6601
●ねこフェス in 石神井公園 2/5(金)〜17(水) 石神井公園パークロード各店舗 03-3996-7419オリエンタルハート ※特集面参照
●第50回オルケスタ新座マンドリンクラブコンサート2/7(日) 入場無料1400 志木市民会館パルシティ(本町1・11・50) 090-9144-7403
●国芳イズム-歌川国芳とその系脈 武蔵野の洋画家悳俊彦コレクション
2/19(金)〜4/10(日)\800 1000〜1800練馬区立美術館 月休 03-3577-1821
●服部雪斎 春の花を描く〜牧野富太郎コレクションより〜2/20(土)〜3/31(木) 入場無料 930〜1630 牧野記念庭園記念館火休 03-6904-6403
●邦楽コンサート「〜日本文学を奏でる〜」 2/28(日) 無料 1330 ふるさと新座館(JR新座駅10分) 琵琶・箏・尺八 048-479-2321
●さくら・さくら〜さくら展vol.113/1(火)〜7(月) 入場無料1000(初日1300)〜1800にいざほっとぷらざ(志木駅隣接) 090-6034-3845
●ちひろのムーブマン3/1(火)〜5/22(日) \800 1000〜1700 ちひろ美術館(下石神井4・7・2 西武新宿線上井草駅7分)月休 03-3995-0612
●歌声喫茶ともしびin新座 3/4(金) \2000(貸歌集\100) 1400 にいざほっとぷらざ(志木駅隣接)さくら展協賛企画 048-478-4523
●諸星裕美ウクレレ弾き語りライブ 3/5(土)無料1510〜1530にいざほっとぷらざギャラリー(志木駅隣接)さくら展協賛 090-6034-3845
●TEE東京演劇アンサンブル公演「最後の審判の日」3/9(水)〜21(月祝)\3800(当日4500)時間要問合 ブレヒトの芝居小屋(関町北) 03-3920-5232
●第13回だいこんブラス定期演奏会3/13(日) 入場無料1400 練馬区立大泉中学校体育館(大泉学園駅北口10分) 080-5516-9735※特集面参照
●「跡見花蹊の女性たち教育・画・書」花蹊と玉枝の画3/14(月)〜31(木) 入館無料930〜1630花蹊記念資料館(新座市中野) 048-478-0130
●新座少年少女合唱団 定期演奏会 3/26(土) 入場無料 1400 ふるさと新座館(JR新座駅10分) 指導/望月秀夫 048-478-4523
●練馬こぶしハーフマラソン20163/27(日)800〜1500都立光が丘公園(スタート・ゴール)ゲストランナー/川内優輝 谷川真理 吉田香織 03-5984-3555

編集メモ
 一昨年の12・1月号特集『悲しみのマリア』の著者熊谷敬太郎さんに本号のエッセイをお願いしました。実在の人物でマリアのモデル武谷ピニロピさんが昨夏黄泉の国に旅立たれたと氏から伺いました。 ご冥福をお祈りします。

プチぶんか村設置箇所
・大吾        ・堀田ピアノ教室    ・藍学舎
・梅の大谷      ・たまてばこ      ・ナカタヤ
・みゆずメソン    ・青樹舎硝子工房    ・法台寺
・満月        ・ひまわり美容室    ・フエゴ
・新座交響楽団    ・工房まどい      ・オリエントハローズコーヒー
・国立埼玉病院    ・青山フラワー       ・片山農産物直売所
・呉服かたやま    ・ルジャンボン     ・スペース陶
・松崎医院      ・だいこんブラス    ・切り絵&そば野田
・田中屋酒店     ・石崎英数教室     ・ニューアマンド
・クロシェットドゥボワ・うさぎの輪      ・きもの処つるや
・だちょう牧場並木屋 ・酒のおぎはら     ・ポラン書房
・JAZZ山田英二    ・ギャラリー北鎌倉物語   ・ピアノクリエ
・うどん亭      ・FUURO         ・フェルナンブーコ
・田倉商店      ・写団四季彩      ・花と美登利
・こぐれ村      ・目白大学       ・跡見学園女子大学
・花蹊記念資料館   ・シネサロン和光    ・和光文化を育む会
・武蔵野楽器     ・スペースM      ・シオン
・桃美会       ・むらさきの会     ・ボサノバ諸星裕美
・ふたば植物画切り抜き紙版画教室       
・埼玉フィルハーモニー合唱団 ・オリエンタルハート  ・スペースKIRAKU
・社会保険労務士伊藤事務所          ・とれたて村石神井
・歌声喫茶ともしび  ・武州里神楽石山社中  ・後藤友禅染色工房
・石神井公園ふるさと文化館          ・ふるさと新座館
・新座観光プラザ    ・新倉ふるさと民家園
・石神井公園サービスセンター ・珈琲焙煎工房ロアン  
・千夜一夜座☆練馬区&朝霞志木新座和光各市公共施設


制作協力スタッフ
  北口雄輝 丸木ますみ 岩下曜子 土井久代 杉山英明 早川緋紗 宇杉


 
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