■特集 油面坂(あぶらめんざか)


 練馬区大泉学園町や西大泉に接する埼玉県新座市池田、栄地区。池田小学校を通り過ぎて新座高校、新座三中に向かう曲がりくねった下り坂を「油面坂」という。珍しい名称なのでいわれを追っていたら本特集になった。



油に関係あり!?
 新座市の古刹、大平山法臺寺の長老にお聞きしたところによれば、1947年の農地改革まで油面坂の坂下一帯は法臺寺の寺領だった。農家は菜の花を栽培し、菜種油を抽出して灯明用として寺に納めた。電気が通じる以前の話である。写真のランプは実際寺で使われていたもの (法臺寺蔵) 。
 当時菜の花畑があったのは新座高校の体育館あたり。一反以上の面積といい、春には一面黄色に染まった。黒目川や妙音沢の湧水の流れとともにのどかな田園風景が広がっていたに違いない。そこから法臺寺へ向かう道筋には今も元久、明和と刻印された古いお地蔵さまが立っている。
 油面坂は赤土の急坂だったため、市場への荷を積んだリヤカーが坂を上る際にツルツルと滑り、「油を撒いたような地面」ということで「油面」と呼ぶようになった…との説もある。リヤカーを押し上げる労働に対しては報酬が支払われた。

目黒にも「油面」
 さて、油面という名は黒目川ならぬ目黒川が流れる目黒区にもあった。目黒川は近年桜の名所として脚光を浴びている。川とは離れているが、目黒には現在も「油面住区」としてその名が生きている。目黒区立油面小学校、油面公園、油面交差点、油面地蔵通り商店街、油面交番など、あちこちに「油面」が見られる。「油面」の名前の起源となったのはお地蔵さまだ。高地蔵こと油面子育地蔵尊。280年もの間、地元の人たちに親しまれてきた。関東大震災後に油面交番の向かい角から商店街中ほどの現在地に移された。子育て・眼病に霊験あらたかとされる。
 大正14年創立の油面小学校は脚本家で小説家の向田邦子も在籍していた小学校で、昔は菜の花畑や竹やぶ、雑木林に囲まれていた。周辺では昭和初期まで菜種栽培が行われ、菜種油は芝の増上寺や祐天寺の灯明用として奉納されたという。搾油に伴う租税が免除されたことから、「油免」転じて「油面」となったものと伝えられている。


油の歴史
 私たちが何気なくあたり前に使っている油にも古い歴史がある。わが国の植物油製造の起源は油が税として徴収されていた大化の改新の頃にまで遡る。平安時代に搾油機が考案され、鎌倉時代には油屋が出現、独占権をもって商売とした。貴重な植物油であり、当時のおもな用途は灯明だった。庶民に食用として油が浸透するのは江戸時代。江戸では灯火用としての不足分は大阪の油問屋から運んで補った。明治には食生活の洋風化により食用油の消費が増大。大正になると大規模な製油工場が稼働を開始する。昭和にはさらに植物油の消費が増えた。

製油発祥の地は
 初期の油は大阪遠里小野(おりおの)産のハシバミ油だが、平安時代に京都山崎(現在の大山崎)で長木による荏胡麻(えごま)油の生産が行なわれると、生産性・品質ともに優れた山崎製が重宝されるようになった。大山崎は鎌倉時代から室町時代にかけて荏胡麻油で繁栄した町だ。
 ところで、大山崎は2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の舞台、かの有名な天下分け目の「天王山」があるところ。その大山崎町の名所の一つに油祖・離宮八幡宮があり、境内には「本邦製油発祥地」の碑(写真左上)や油祖像(写真右上)が立つ。現在も油の神様として親しまれ、油関係者の参拝が多い。近くの大山崎町歴史資料館には繁栄した頃の油売りのレリーフがある(写真下)。
 話は戻って、遠里小野はやがて油分の多い菜種の搾油に着手し、搾油道具の改良とともにリベンジを果たすこととなる。菜種油は江戸から明治にかけて盛んに生産・販売され、遠里小野村は大いに潤った。

あぶらちゃん
 春に小さい黄色い花が咲くクスノキ科の落葉低木のこと。クロモジに似ている。材、実ともに油を多く含み、昔はこの油を灯火用に使った。「チャン」とは油の一部「瀝青」の中国読みで、名前につける「○○ちゃん」ではない。同木は練馬区立牧野記念庭園にもある。

<本>
『陛下、お味はいかがでしょう。』
 副題に〈「天皇の料理番」の絵日記〉とある。エッセイの工藤極さんの著書だ。
天皇家の食卓と団らんの様子が楽しい自筆イラストと文面から垣間見れる。料理人の目線で皇室を紹介する稀有な書といえる。家庭で作れる宮中レシピも収録。徳間書店刊 本体\1500+税
氏の料理はビストロ・サンジ
ャックで。(練馬区栄町39-19
-101 03-6794-2100 予約制)








<ヒストリー>
献上銘菓「爾比久良(にいくら)」 

 大吾の初代店主大草長二氏が製菓会社の選抜社員として渡米しニューヨークで修業していた1974〜75年の間に昭和天皇のご訪米があった。ニクソン大統領と三木総理の時代。その晩餐会の和菓子作りを一任され、日本人のアイデンティティを盛り込んだお菓子を考案し披露。そのなかに爾比久良の原型が含まれていた。和栗の甘露煮をこしあんで包み、さらに黄身羽二重で覆った口当たりのよい一品だ。独立後は「献上品武蔵野銘菓」として人気商品となった。爾比久良は元をたどればニューヨーク生まれの国際的な和菓子だったのだ。
2個入\1010(税込) 広告欄参照



<秘話>
おもひ子

 上皇后美智子さまが皇太子妃の頃に作詞された「ねむの木の子守歌」は有名だが、作曲された「おもひ子」はあまり知られていない。福岡県甘木
出身の宮崎湖処子の詩「いづれの星かわが庭に 落ちてわ子とはなりにけむ…」にメロディーをつけ子守唄としてお子様を育てられた。上品で歌いやすく、母親の愛情がにじみ出ている。昭和44年7月14日上野の東京文化会館でソプラノ伊藤京子、日本女子大学合唱団、桑島すみれのハープ演奏で初演された。(写真:おもひ子詩曲碑[朝倉市甘木公園])





<本>
詩集「母守唄『母は焚き木です』」
    
 詩人(故)松永伍一を文学・詩人の師として仰ぐ詩人の国見修二氏は新潟で活動する。著作『瞽女と七つの峠』を読んでいた私は、昨年3月松永伍一文学詩碑除幕式で彼と不思議な偶然の出会いをした。国見氏から新著が届き、収録250余の三行詩を声を出しながら一気に読んだ。亡母の生前の姿と言葉が次々と浮かんで涙が溢れた。日本子守歌の第一人者でもあった松永先生は『老いの美徳』の中で、子守歌が母子の絆の証であったように、子から母にげるものとして「母守歌」を提唱している。国見氏の三行詩には母に捧げる愛情歌が充溢する。読売新聞書評欄に一青窈の称賛文が掲載された。プチぶんか村の読者にもお勧めしたい一冊である。近藤征治(新座市)玲風書房刊 本体¥1800+税


ぶんか村エッセイ 116

天皇の料理番として
工藤 極(「ビストロ・サンジャック」オーナー)

くどう きわむ 1951年東京生まれ。学習院高等科卒業後、創業115年のフレンチレストラン小川軒で修業。天皇の料理番秋山徳蔵氏の影響を受け1974年より宮内庁大善課厨房第二係に奉職。英国女王陛下宮中晩餐会に参加。以後昭和天皇・皇后両陛下の日常の食事、園遊会、お茶会等の調理を担当。30歳で西麻布ビストロ「麻布きゃら亭」シェフオーナーとして独立。現在江古田の「ビストロ・サンジャック」オーナー。著書に『陛下、お味はいかがでしょう。』練馬区在住

 今年4月に今上天皇が退位されましたが、かつて私は「昭和天皇の料理番」を務めていました。1974年から宮内庁大善課厨房第二係(洋食担当)に奉職し、昭和天皇・皇后両陛下のお食事づくりに従事したのです。
大善課の料理には三原則「焦がすな」「捨てるな」「腐らすな」があり、食材を丸ごと使い切るよう料理の準備段階から工夫します。野菜の皮や葉はスープの具にし、鶏の骨もだしに使う。一切無駄にしないのが天皇家での調理の基本で伝統でした。
 私が奉職した時、天皇はすでに70歳を超えるご高齢でしたので、厨房の告知板には以下の文章が貼り出されていました。
・カロリーは一日1800kcal、化学調味料は一切使用しない

・糖分は砂糖でなく果物で摂取
・ご昼食にデザートはお出ししない

 天皇家ではご朝食は必ず洋食、昼と夜は和食と洋食が交互にくるという一日2食は洋食です。洋食は高カロリーと思われがちですが、日本でとれる旬の食材を使えば日本人に合った洋食が作れます(「身土不二」)。「御料牧場」からは有機野菜やそこで飼育されている牛、鶏、バター、牛乳等が週2回送られてきました。食材自体がおいしいためコッテリしたソースを使う必要がなく、低カロリーに仕上げることができます。
天皇は出されたものは残さず食べ、料理の感想などを述べることはありません。しかし、ただ一度だけおほめの言葉を頂いたことがあります。
毎年5月に献上される長良川の鮎を、軽く塩をした千切りジャガイモで包み、フライパンで焼いて大葉の千切りと焦がしバターを掛けた「鮎の千切りポテト衣焼き」という一品をご昼食にお出しした時のこと。北白川祥子女官長が調理場に訪ねてこられ「あなたが工藤さんですね?陛下から御言付けが御座います。今日の昼の鮎の一皿は美味であったと申し伝えるようにとのお言葉でした。」
深く頭を下げて調理場の右手にある休所に入り、18歳からの日々を思い涙があふれ、止める事が出来ませんでした。今この事を知るのは私一人。これを料理人修行の一生の糧として、生きていきたいと思います。


■ぶんか情報

大泉学園ゆめりあホール・ギャラリー

〒178-0063 練馬区東大泉1-29-1(大泉学園駅北口)03-5947-2351 www.city.nerima.tokyo.jp/ 
書と墨画二人展6/11(火)〜17(月)1100(初日1400)〜1900(最終1600)宮本沙海・萩悦(喜寿) 練馬に住まいして50年 070-6645-2470
歌声喫茶 ともしび in 大泉 6/13(木) 7/17(水) \2000(貸歌集100) 950 懐かしい歌をご一緒に歌いましょう! 03-6907-3801
谷 修コンサート2019 6/21(金) \3000 1900 大泉学園に在住し、地元練馬を歌うシンガーソングライター  03-5337-2046

練馬文化センター(ホール・ギャラリー)
〒176-0001 練馬区練馬1-17-37(練馬駅北口)03-3993-3311 http://www.city.nerima.tokyo.jp
●妄ソー劇場文豪シリーズその2 6/29(土)1900・30(日)1500 \5000 出演/イッセー尾形 演目/ゴーゴリ「外套」太宰治「斜陽」ほか
●練馬交響楽団第69回定期演奏会 7/21(日) ?1000 1400 指揮/小森康弘 ドヴォルザーク「謝肉祭」 ドヴォルザーク交響曲第8番

T・ジョイSEIBU大泉 シアター
〒178-0063 練馬区東大泉2-34-1(オズスタジオシティ4F) 03-5933-0141 http://www.t-joy.net  
今日も嫌がらせ弁当 6/28(金)〜 不器用な母娘の実話に基づく感動の物語 出演/篠原涼子 芳根京子 松井玲奈 佐藤隆太
アルキメデスの大戦 7/26(金)〜 数字で戦争を止めようとした男の物語 出演/菅田将暉 柄本佑 浜辺美波 笑福亭鶴瓶 

和光市民文化センター サンアゼリア
〒351-0192和光市広沢 1-5(和光市駅徒歩15分) 048-468-7771 http://www.sunasalea.or.jp
清水かつら記念・童謡フェスティバル みんなでつくるコンサート6/29(土)\500 1100出演/渡辺かおり(童謡歌手)ほか 「靴が鳴る」
長谷見誠 ミュージックプレイス 7/6(土) \3000  1500 サンアゼリアでのデビューリサイタルから15年 ピアノ/安宅薫
第2回 真夏の歌の祭典 in 和光 7/28(日) \2000 1400 出演/和田タカ子 布施忠良 布施雅也ほか多数 090-5413-7657新井

その他のコンサート・展覧会・公開講座
●桜―太田洋愛のまなざし−
〜6/23(日) 入場無料930〜1630練馬区立牧野記念庭園記念館(大泉学園駅南口5分) 火休 03-6904-6403
ちひろが描いた日本の児童文学 〜7/28(日) \800 1000〜1700ちひろ美術館(下石神井4・7・2上井草駅7分)月休 03-3995-0612
ギャラリー&陶芸工房「トーユーボー鈴美」開業 6/1(土)より 1100〜1500 窯主/菊地吉紀 新座市栄5・3・31 080-2240-8629
国立埼玉病院「道の会」展示 7月「海の日」8月「山の日」国立埼玉病院内 南画・書・童画・貼り絵・アクリル画・写真 090-6034-3845
ホタル−生命の輝き−写真展 6/1(土)〜7/31(水)観覧無料930〜1630 石神井公園ふるさと文化館 ホタル観賞会6月中旬 03-3996-4060
劇団桃唄309「アミとナミ」6/12(水)〜16(日)\4000時間要問合 座・高円寺(JR高円寺5分)ハンセン病がテーマ 080-9676-3553
生誕90周年記念「手塚治虫展」 6/15(土)〜8/25(日) \980 930〜1700 茨城県近代美術館(水戸市千波町) 月休 029-243-5111
第24回浅岳会作品展6/16(日)〜22(土) 1030(初日1400)〜1800(最終1500)東京交通会館エメラルドルーム(JR有楽町) 03-3214-4288
近現代絵画収蔵品展 6/18(火)〜7/31(水)入館無料 930〜1630 跡見学園女子大学花蹊記念資料館 大学休業日休館 048-478-0130
公開講座「和食を楽しむこと-その意味と目的-」6/22(土)要申込1400十文字学園女子大学 講師/土井善晴(料理研究家) 048-477-0958
のぞいてみよう 昔のくらし 6/22(土)〜8/12(月休)観覧無料900〜1800練馬区立石神井公園ふるさと文化館 月休 03-3996-4060
第6回野火止用水灯明まつり 6/23(日) 1600〜2030 西分集会所隣 用水沿いに約2000の手作り灯明が並ぶ 090-3178-5581高畑
立教大学JGデビューイベント7/6(土) 入場無料1430 JGは立教大学唯一の公認ストリートダンスサークル 新座市民会館 048-481-1111 
春風亭一之輔のドッサリまわるぜ2019 7/14(日) \3900 1330 志木市民会館パルシティ(志木市本町1・11・50) 048-474-3030
没後50年 坂本繁二郎展 7/14(日)〜9/16(月祝)\1000 1000〜1800練馬区立美術館(中村橋)作品資料約150点 月休 03-3577-1821
浴衣で楽しむ古典鑑賞 〜講談・桃川鶴女〜 7/15(月) \1000(要予約) 1700 きもの処つるや(新座市片山2・12・13) 048-481-0281
杉原千畝物語 オペラ「人道の桜」7/20(土)1800・21(日)1400?4000いわきアリオス6千人のユダヤ人の命を救った外交官 090-2021-6412
EXHIBITION -R- 池田龍雄と(遊ぶ)絵画空間(アートスペース) 7/23(火)〜28(日)1200〜1900ギャラリー古藤(武蔵大学正門前) 03-3948-5328
はらぺこあおむしショー 8/2(金) \2500 1030・1330 新座市民会館(野火止1・1・2) エリック・カールの絵本の世界 048-481-1111
ベンチャーズ結成60周記念ジャパンツアー2019 8/4(日) \6000 1500 朝霞市民会館ゆめぱれす(本町1・26・1) 048-466-2525

プチぶんか村設置箇所
・大吾        ・ナカタヤ       ・松崎医院
・梅の大谷      ・ポラン書房      ・トーユーボー鈴美
・アミフランス    ・練馬放送       ・法台寺
・埼玉フィルハーモニー合唱団 ・スタジオパパパ    ・オリエントハローズコーヒー
・JAこぐれ村    ・だちょう牧場並木屋  ・にこまーる並木
・うさぎの輪     ・フエゴ        ・満月
・青樹舎硝子工房   ・ニューアマンド    ・ルジャンボン
・工房まどい     ・クロシェットドゥボワ ・切り絵&そば野田
・スペースM     ・オリエンタルハート  ・スペースKIRAKU
・シューズハウスふみや・ふな与        ・たまてばこ
・だいこんブラス   ・田中屋酒店      ・片山丸越
・きもの処つるや   ・イタリア料理カルド  ・おうちカフェ8585
・原田直之音楽事務所 ・堀田ピアノ教室    ・呉服かたやま
・フェルナンブーコ  ・田倉燃料店      ・栄泉
・ハタザクラを守る会 ・石崎英数教室     ・ギャラリー北鎌倉物語
・むらさきの会    ・諸星裕美       ・武蔵野楽器
・社会保険労務士伊藤事務所          ・歌声喫茶ともしび
・後藤友禅染色工房  ・アトレ企画      ・桃美会
・スペース陶     ・辻ヨガ教室      ・花と美登利
・青山フラワー    ・シオン        ・国立埼玉病院
・目白大学      ・跡見学園女子大学花蹊記念資料館
・JAとれたて村石神井・石神井公園サービスセンター
・ふるさと新座館   ・石神井公園ふるさと文化館
・新座観光プラザ   ・片山農産物直売所   ・新座交響楽団
・ココネリ産業観光情報センター
・石神井公園観光案内所 ☆練馬・朝霞・志木・新座・和光各公共施設


制作協力スタッフ
  北口雄輝 丸木ますみ 岩下曜子 土井久代 杉山英明 早川緋紗 宇杉
 
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