長崎平和公園にある平和祈念像は、長崎のシンボルとしてあまりにも有名である。長崎観光にも欠かせない。その平和祈念像が私たちの身近に関係していることをご存じだろうか。そして当地には同じ彫刻家の手による像が存在している。

制作者は？
　長崎出身の彫刻家北村西望（きたむらせいぼう）。明治から昭和にかけて１０２歳まで生きた、いわばセンテナリアン。東京では北区に長く住んだのち武蔵野市に転居し、70代の頃に吉祥寺駅の南に設けたアトリエで４年の歳月をかけて平和祈念像を制作した。長崎の平和祈念像は吉祥寺の近くで作られていたのである。

平和祈念像について　
　当初は立像の構想であったが、立像から座像に変更されて、よりインパクトのある現在の形となった。
　長崎の平和祈念像は、像高9.7ｍ、台座高3.9ｍ、重さ約30ｔ。鉄骨を芯にした青銅製である。あれほど巨大な像をどうやって東京から長崎まで運んだのであろうか。104個のパーツに分割して板橋区内で鋳造し、搬送した。現地長崎で組み立てられたそうだ。
　慈悲をたたえる柔和な顔立ち、黙した目は戦争犠牲者の冥福を祈っているかのようだ。天を指す右手は原爆の脅威を、横に伸ばした左手は平和を表しているという。右手人差し指には避雷針が設置されている。

【東京で平和祈念像めぐり】
　なかなか長崎までは行けそうもない昨今。状況を見ながら、都内で西望の平和祈念像を見学して回るというのも一興では？

�@井の頭自然文化園彫刻園
西望は吉祥寺駅から徒歩10分のところに東京都から土地を借り受けてアトリエを構え、数多くの作品を残した。それらを返礼として都に寄贈した。同園には長崎の平和祈念像の原型をはじめ約２００点が、アトリエ館、彫刻館Ａ館、Ｂ館の３棟のほか野外にも展示されている。
入園料４００円で彫刻園も見学できる。
※現在入園は予約制（要整理券）
０４２２-４６-１１００

�A仙川平和公園（三鷹市）　
　吉祥寺からバスで深大寺方面へ向かう機会があるなら、車窓から小ぶりながらも相似形の平和祈念像を見つけることができるだろう。公園内には「アンネの形見のバラ」「広島被爆樹木２世のアオギリ」なども植えられ、下車見学もよし。バス停南新川からすぐ

�B北とぴあ（北区）
　正面玄関前の平和祈念像は、西望が37年間北区に住んだ名誉区民第一号ということを一因として関係諸氏の好意と理解のもとに建てられた。高さ３ｍ弱と縮小サイズながらも存在感がある。JR王子駅２分

�C板橋区役所
　長崎の平和祈念像に似ているが�@〜�Cのなかでは唯一の立像である。座像より早期に試作された原型を使用している。題は「平和を祈る」。「原点の『立像雛形』に帰り『頭部試作』と合流して一つの新作に昇華し得たのは作者としても大きな喜び…」と本人メッセージが添えられている。
東武東上線大山駅10分

【大泉学園にもある北村西望作品】
�@日蓮上人像　
　天台宗の寺として創建され、鎌倉時代に日蓮宗に改宗した妙福寺（練馬区南大泉）。その境内にあるのが筋骨隆々とした西望作の日蓮上人像。平和祈念像にも重なる力強い作風だ。妙福寺は江戸時代に徳川将軍家の祈願所となった格式ある寺である。大泉学園駅北口12分

�A加藤隆太郎像
　旧大泉村長、都議、衆議院議員を務め、練馬区独立の実現に尽力した人物。第３次吉田内閣では電気通信政務次官、日本自由党幹事。私財を投じて財団法人加藤教育振興会を設立して地元の教育に力を注いだ。功績をたたえる像が母校である区立大泉小学校の校門前に立つ。大泉学園駅北口３分

�@日蓮像は井の頭自然文化園彫刻園にもある

�A題字と碑文も西望作

西望作の松永安左エ門像
　この像は当地ではなく長崎県壱岐市の「松永安左エ門記念館」にある。安左エ門といえば壱岐の生まれだが、新座市ゆかりの実業家(電力王)でもある。平林寺に近い睡足軒で茶をたしなみ、耳庵（じあん）と名乗った。平林寺に墓があることは周知であろうが、没後50年の今年、西望作品に安左エ門を偲んでみたい。

写真提供：壱岐市教育委員会