■特集 大泉ポルボローネ物語


 暑い夏にはなんといってもかき氷。一年中かき氷を注文できる店が大泉学園駅の南口にあった。それは「華樓(ガロ)」。なかでも絶品だったのが小豆ではなく金時豆をたっぷりのせた宇治金時と自家製シロップをかけた氷いちご。店はまるで甘味処みたいなのに洋菓子もナポリタンもある。そんな華樓を思い出させる夏が来た。


大泉でホットケーキがうまいと評判の店を教えて…
 と、読者からの問い合わせをもとに取材したのが7年前。店名は「華樓(ガロ)」(「♪君とよくこの店に来たものさ〜」のガロとは関係なし) 。茶室あり、盆栽ありと、たたずまいが和風のため誰もが甘味処と疑わなかったが、実はヒューマンストーリーを秘め、壁にはこんな貼り紙がしてあったのだ。


大泉になぜポルボローネ?
 ポルボローネというスペインのお菓子は、日本においては昭和時代に出現した。店主の川崎和人さんによれば、千葉県出身である彼は、手に職をつけるべく県内で和菓子屋に入門。和菓子の技術を身に着けてしまうとそれに飽き足らず洋菓子へ。やがて帝国ホテルにたどり着く。高名なパティシェの下で修業することとなった。今では日本でも市民権をもつようになったポルボローネだが、当時はレシピもなく、開発に当たっては「スペイン語で書かれたお菓子の本を、師匠とともに苦労して翻訳した」。つまり川崎さんはポルボローネ職人の草分け的存在なのだ。かくして独立して大泉に店を持つに至り、ポルボローネはいち早く当地にもたらされたのである。店にはお世話になった師匠の写真を掲げた。ある意味大泉は日本のポルボローネの発信地のひとつ…といっても過言ではないだろう。


「華樓」の店主川崎和人さん2015年撮影


趣味の盆栽

茶室のある店内


ポルボローネのいわれ
 あるいはポルボロンのほうが通りがいいかもしれない。スペイン語で塵(ちり)の意「ポルボ」に強調語尾の「ロン」がついて「ポルボロン」。その複数形が「ポルボローネ」とされる。ホロホロとはかなげに口の中で崩れてしまう食感が魅力のお菓子で、くちどけする前に「ポルボロン、ポルボロン、ポルボロン!」と3回唱えると幸せが訪れるという。ポルボローネは縁起のいいお菓子なのだ。試してみたくなる。
 1200年前、スペインのアンダルシア地方の修道院で発祥したものだが、大航海時代にはスペインの植民地フィリピンやキューバなどにも広まった。雪解けを連想させる食感であることから、スペインでは伝統的なクリスマスのお菓子としても定着。フランスの「ブール・ド・ネージュ」、ベルギーの「スノーボール」に似ている。


スペインみやげ「ポルボロン」の包み紙


ポルボローネよ、さようなら
 
華樓には地元だけでなく多くのファンがいた。そして数々のメディアで紹介されてもきた。しかし2020年8月、惜しまれながら閉店。川崎さんは転居して現在埼玉県内に住んでいる。それではこの大泉ゆかりのポルボローネは幻となってしまうのか?

しかし、バトンは渡された!
 そんな心配をしているファンもいるはずである。でもご安心を。川崎さんが同業者として親交を深めてきたナカタヤ洋菓子店会長の中田清さん方にレシピは委ねられたのだ。中田亘伯留社長は閉店前の華樓を訪れ、自店の近江大介シェフとともに作り方を伝授されている。幻にならないでほしいという川崎さんの願いと近江シェフの情熱とがポルボローネの再現を促すかもしれない。
 この取材をきっかけに中田亘伯留社長が「地域の方々に川崎さんのポルボローネを味わってもらいましょうか」と提案してくださった。大泉学園町の洋菓子店にバトンはしっかり渡ったようである。
本格的な商品化はまだ先になるにしても、「地元に幸運をもたらすお菓子…」が誕生するとなれば私たちにとってもうれしい話である。 
ポルボローネは、8月10日から 31日までナカタヤ本店にて期間限定で販売される。
練馬区大泉学園町7-19-11
都民農園バス停から徒歩3分
03-3924-8102
nakataya1959.jp


ナカタヤの中田亘伯留社長


松原健之さんの舞台および新曲 
 本号のエッセイに登場した松原健之さんが今秋、前進座公演『雨あがる』(山本周五郎原作)にゲスト出演する。『雨あがる』は映画でもヒットした感動を呼ぶ剣豪ものだ。松原さんの役どころは旅回り芸人与十郎。国?劇場小劇場で9/23(金)〜27(火)、比較的近いところでは武蔵野市民文化会館での公演がある。武蔵野市民会館のほうは9/30(金)14:30 A8500円 B5000円C3500円  musashino.or.jp問合先0422-49-2811(前進座) 
6月に新曲「夢を抱いて走れ」が発売された。『噂の!東京マガジン』(BS-TBS日曜13:00〜)のエンディングテーマとして流れており、9月末まで聴くことがきる。

末無川(すえなしがわ)を探して
 詩人の吉野弘がエッセイに、朝霞から平林寺へバスで向かう途中「膝折の少し手前に末無川というバス停があった。そこは川ではなく畑地であった…」と書いている。そのバス停を探してみた。末無川とは、中国の天山山脈から流れてゴビ砂漠に消えてしまうような、源流はあっても大雨以外は水が地面に浸透して見えなくなる川のこと。新河岸川水系にはいくつか見られるという。旧川越街道の「膝折2丁目」信号から北東に曲がってすぐ発見。周りは住宅地と化し、洒落た洋菓子店があった。

『鎌倉殿の13人』をもっと身近に
 大河ドラマの主人公である北条義時と後鳥羽上皇が争った承久の乱において、武蔵武士の片山氏も参戦した。片山氏は武蔵七党最大勢力の児玉党に属し、新座市の片山一帯を治めていた。おそらく「鎌倉殿…」のドラマには登場しないだろうが、承久の乱での功が認められ、地頭職を得て京都の丹波国和知(わち)に移住する。そののち織田信長と足利義昭対立の際は「和知三人衆」として織田軍の大将明智光秀に加勢した。光秀の亀山城築城にも尽力。片山氏の末裔は今も脈々と丹波和知に息づいている。以上、本紙バックナンバー#121(大河ドラマ『麒麟がくる』放送の年に紹介した号)からのエピソードである。

埼玉フィルハーモニー合唱団定演 9/24
 
「オーケストラと共に歌える 合唱団」という意味を込めて命名された合唱団で、指揮・松井眞之、ピアノ・小笠原貞宗の両氏を迎え、幅広いレパートリーを持つオーケストラ「マイスターシンホニカ」と共演している。今回はバッハの「チェンバロ協奏曲第1番」を小笠原貞宗氏による「ピアノ協奏曲」として演奏する。合唱曲はシューベルトのミサ曲と、懐かしく郷愁を誘う12曲構成の「ふるさとの四季」。
※詳細はお出かけ情報参照
※先着5組10名様に招待券プレゼント 編集部まで



■ぶんか村エッセイ124



練馬上石神井に何度も通ったわけ
 松原健之(歌手)


まつばら たけし 1979年静岡県袋井市生まれ。2005年「金沢望郷歌」でデビュー。第1回日本演歌歌謡大賞優秀賞、第50回 日本有線大賞有線奨励賞、2018年度日本歌手協会最優秀歌唱賞受賞。松原の「松」は詩人・松永伍一の「松」、健之の「之」は作家・五木寛之の「之」から五木寛之が命名。ふくろい未来大使、稚内ふるさと大使、T・ジョイ稚内名誉館長

 2001年11月18日、石川県の内灘町で行われる内灘砂丘フェスティバルに向かう飛行機の中で隣り合わせだったのが詩人の松永伍一先生との初めての出会いでした。小松空港に着くと松永先生は出迎えた五木寛之先生と内灘海岸を歩いて即興詩を作り、午後の舞台で発表されました。そして僕は内灘愁歌という歌を歌いました。
 翌日、五木寛之先生の案内で、松永先生と金沢の街を歩き、午後の飛行機で東京に帰りました。
 別れ際に、松永先生は「今度練馬の我が家に遊びにおいで」と。それから僕は上石神井のお宅にお邪魔しては、様々なお話を聞かせて頂きました。2002年に「たけしのために」と書いて下さってそのままになっていた「蛍よ」という詩にメロディーがついて、2021年に発表することができました。
 きっと松永先生も天国から、「まずまずの出来じゃない?」と笑ってくださっていることでしょう。
 コロナ禍が続き、未曾有の災害が、そして、戦争が…と大変な世の中になりました。
 松永先生が残してくださった「蛍よ」が、平和をもたらす歌になってくれたらなぁと祈りながら、これからも歌って歩きたいと思っています。
※特集面・情報欄に関連記事有


■おでかけ情報


時節柄、あらかじめお確かめの上お出かけください。定休日が祝日のときは翌日が休みとなることなどもあります。

●牧野富太郎生誕160年記念特別展
「牧野富太郎と万葉集の植物」
開催中〜9/25(日) 9:30〜16:30 火曜休館
入場無料 牧野記念庭園記念館 練馬区東大泉6-34-4(大泉学園駅南口5分) 03-6904-6403

●ちひろ・花に映るもの
開催中〜10/2(日) 10:00〜16:00月曜休館 1000円 ちひろ美術館 練馬区下石神井4-7-2 (上井草駅7分) 03-3995-0612

●シアトル→パリ 田中保とその時代
開催中〜10/2(日) 10:00〜17:30 月曜休館 900円 埼玉県立近代美術館 さいたま市浦和区常盤9-30-1(北浦和駅西口3分 北浦和公園内) 048-824-0111 ※海を渡った画家の軌跡 

●田子山富士築造150周年・
吉田胎内開基130周年記念特別パネル展
8/1(月)〜19(金)8:30〜17:15(土日祝休)      志木市新庁舎4階展望ロビー 志木市中宗岡1-1-1 ※田子山富士は国の重要有形民俗文化財
問合先048-471-0049(志木市商工会)

●松原健之コンサートツアー2022
8/6(土) 15:30 7300円(要ドリンク代600円)??町三井ホール 千代田区大手町1-2-1 (地下鉄大手町駅6分) 03-4426-6303 (オデッセー)

●清水かつら記念第19回日本歌曲歌唱コンクール
8/20(土) 13:00 入場無料 和光市民文化センターサンアゼリア 和光市広沢1-5 048-468-7771※清水かつらは和光ゆかりの童謡詩人

●イープラスpresents
「ピアノの森」ピアノコンサート2022
8/21(日) 14:00 3800円 志木市民会館パルシティ 志木市本町1-11-50 048-474-3030
演奏/高木竜馬 「華麗なる円舞曲」「英雄ポロネーズ」他

●映画「異動辞令は音楽隊!」
8/26(金)〜 T・ジョイSEIBU大泉ほか 原案・脚本・監督/内田英治 出演/阿部寛 清野菜名 磯村勇斗 高杉真宙 ※犯罪捜査一筋30年の鬼刑事が警察署内の〈はぐれ者集団〉にまさかの人事異動?

●東京演劇アンサンブル公演
「銀河鉄道の夜」 ケンタウルス つゆを降らせ!
8/26(金)〜28(日)19:00 3800円(当日4500)
池袋西口公園野外劇場グローバルリングシアター
(池袋駅西口1分) 小雨決行 048-423-2521
●練馬区演奏家協会レクチャーコンサート
「ピアソラ&ヴェルレーヌ」
8/27(土) 15:00 1500円 練馬文化センター 練馬区練馬1-17-37(練馬駅北口) 03-3993-3311  
※「ピアソラ組」と「ヴェルレーヌ組」の競演

●道場町内会 灯明祭り
8/28(日) 16:00〜20:00 新座市道場1丁目ふれあい広場(道場集会所横)  090-3543-9803
(清水) ※初めての灯明連携開催

●日本の中のマネ
―出会い、120年のイメージー
9/4(日)〜11/3(木祝) 10:00〜18:00 月曜休館
1000円 練馬区立美術館(中村橋駅3分)
練馬区貫井1-36-16 03-3577-1821

●演奏だけでなく絵も人気!
「フジ子・ヘミング版画展」
9/8(木)〜13(火) 11:00〜18:00(最終日15:00) スペースM 志木市本町1-2-2 048-474-8486※同時開催:藤田嗣治、お薦め作家、小物など

●世界音楽冒険記 LIVE!「アイルランドの音楽」
9/10(土) 17:30 3000円 観蔵院曼荼羅美術館
練馬区南田中4-15-24  
出演/豊田耕三(アイリッシュフルート)・長尾晃司(ギター)・沼下麻莉香(フィドル) 03-3996-5138(増田)
 
●特別展「練馬といえば!大根
―練馬大根いまむかしー」
9/17(土)〜11/6(日) 9:00〜18:00 月曜休館 300円 石神井公園ふるさと文化館
練馬区石神井町5-12-16 03-3996-4060

●埼玉フィルハーモニー合唱団
第17回定期演奏会
9/24(土) 14:00 900円 朝霞市民会館ゆめぱれす 朝霞市本町1-26-1(朝霞駅南口12分)
曲目「ふるさとの四季」・バッハ「ピアノ協奏曲第1番」・シューベルト「ミサ曲第2番ト長調」
048-477-2424(小川) ※特集面に記事

●プッチーニ作曲 オペラ「蝶々夫人」
ハイライト上演〜一途な愛 その運命の結末とは〜
10/1(土) 14:00 3000円 朝霞市民会館ゆめぱれす 朝霞市本町1-26-1 048-466-2525

編集後記 新潟開催の展覧会に向かう途中、新幹線で偶然隣り合わせたのが歌手の松原健之さん。練馬や新座にご縁があると伺いエッセイをお願いしました。快諾してくださり感激!みなさんも応援してくださいね。

HP

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