■特集 稀有なおひなさま


 明治時代に実業界で活躍した關藤次郎の曽孫山崎博子氏がエッセイで語ったのはたぐいまれなお雛さま「曲水の宴」。本特集ではほかに全国の珍しいおひなさまをいくつか紹介する。

依水園のおひなさま
 曲水の宴をモチーフとするおひなさまとはどのようなものか気になるところ。図録「依水園のおひなさま」を見ると五段飾りとはまるで異なるイメージ、きわめて典雅である。
 曲水の宴とは庭園に流れる小川のふちに出席者が座り、流れてくる盃が自分の前を通り過ぎるまでに詩歌を詠み、盃の酒を飲み干して次へ流し、その詩歌を別室で披講するという貴族の行事。今日でも太宰府天満宮、上賀茂神社、城南宮ほかで再現されることがある。
 奈良市にある依水園では早春の行事として母屋でこの曲水の宴のおひなさまを期間限定で公開している (おでかけ情報欄参照)。奈良に旅する際には、おひなさまの公開に合わせて訪れるのも一興。高貴なおひなさまを一度は鑑賞したいものだ。

曲水の宴のおひなさま

端正なお顔立

琴弾き姫と官女

名勝・依水園(いすいえん)
 江戸期と明治期の二つの異なる趣を同時に味わえる美しい池泉回遊式庭園。東大寺と興福寺の間にありながらも喧騒を忘れさせるような静かなたたずまいが魅力。四季折々の草花や木々の向こうに若草山、東大寺南大門、大仏殿の鴟尾が望める。寧楽美術館を併設する。
近鉄奈良駅から徒歩15分
バス停「県庁前」から5分
isuien.or.jp

依水園庭園
(観光客の頭上に見えているのは東大寺南大門)

各地のおひなさま
【うすき雛】 
 大分県の臼杵藩第14代主稲葉観通の時代は質素倹約を勧める天保の改革の頃。古文書によれば何度も雛人形に関する禁止のお触れがでている。臼杵の民は質素な紙のおひなさましか飾ることが許されなかったのだ。臼杵の親たちは、子どもの成長と無事を祈りながら紙製の立雛を飾った。原型から作り方を再現し、現在では「うすき雛めぐり」の行事が行われている。
【起(おこし)土人形】
 愛知県尾西市(尾張一宮)の冨田に伝わる土人形で、京都の伏見人形の系譜といわれる。天保年間に、美濃路の宿場町として栄えた起から中島佐右衛門と日比野忠四郎が名古屋御器所の土人形師に弟子入りし、郷里に戻って作ったのが始まり。5代目までは引き継がれたがその後は不明。右は尾西歴史民族資料館に展示してある起土人形の内裏雛。
【七夕人形】
 長野県松本市では七夕祭りのときにおひなさまのような紙人形を軒先に吊るして飾る風習がある。京都の冷泉家に伝わる平安貴族の七夕行事を模したらしい。松本は城下町なので武家の子女により手毬や姉様人形とともに押絵雛が発祥、それが変化した形で吊るす七夕人形となったのではないか。
【流し雛】
 ひなまつりのルーツともいわれる。人形と共に身の穢れを水に流して清める行事。


鳥取市用瀬町の
流し雛が代表的
【草花びな】
 練馬区羽沢の南画家鶴岡桃華氏が指導の題材として用いたおひなさま。和紙と水引がいい仕事をしている。



■コラム


桜二題

【プリンセス雅(みやび)を見に行こう!】
 編集部おすすめ今春のお花見スポットは武蔵野線新座駅南口公園(駅から3分)にある3本の桜。野火止用水ゆかりの桜で、濃いピンクの花は名の通りとても優雅。開花は3月末から4月にかけて。

【桜のステンドグラス】
 五島列島の大曽教会は大正時代の建築。桜をモチーフとするモダンなステンドグラスはドイツのガラスが用いられた。写真は建築当初の部品。(有川港に展示)



新潟の"おいしい"山古志本舗

 2004年の中越地震で新潟の山古志村は被災。過疎化が進む郷里の村を応援しようと和光在住の女性が立ち上げた。山古志の棚田と湧水で育つ極上「たねすはら米」を筆頭に、新潟の産物を扱う。米から作られる食品、地酒、菓子、調味料などオール新潟産。おいしいご飯に欠かせない新潟野菜の「ごはんのお供」も揃う。越後といえば…の笹団子も。土日は新潟素材を使った自家製弁当を販売。羽田エアポートガーデン店もオープンした。
和光市駅前南口すぐ
048-424-5825
水曜定休



ねこだけ

 猫の日にちなんで猫がつく山を探してみた。北海道知床、岩手、広島に猫山を発見。福島県には猫魔岳・猫鳴山、北アルプスには猫又山・大猫山、乗鞍岳には猫岳など。根子岳は信州菅平と九州阿蘇に2例あり、阿蘇の根子岳は猫の字を当てることもある(写真)。いずれにしても、何らかの猫伝説や郷土の歴史にまつわる名称だという。


 


かわいい「ねこ饅頭」がたまらない!

 2月22日は猫の日。そこでネコ大好きのあなたに爾比久良で有名な大吾のかわいいニャンコをご紹介。ふっくらとした後ろ姿を象った薯蕷饅頭で2016年からの人気もの。三毛(粒餡)、白(漉餡)、黒(南瓜)、茶虎(小豆皮剥餡)の4種類。通年販売だが2月は特に人気上昇。売り切れないうちにお求めを。1個230円(税込)。3個入、4個入があり、組み合わせ自由。日持3日。
03-5947-3880月曜定休 10:00〜
18:00 ※都民農園バス停からすぐ



■ぶんか村エッセイ127



お雛さま「曲水の宴」の想い出 
 山崎博子(跡見学園女子大学名誉教授)

やまざき ひろこ 1934年東京生まれ。跡見学園女子大学教授を経て、同学名誉教授。同学新座キャンパスの全サクラの同定調査と樹勢回復治療に関わる。大学主催の「桜まつり」にも活用される「跡見学園女子大学の桜 構内サクラガイド」を同学卒業生たちと作製している。日本櫻学会評議員

 お雛さま「曲水の宴」は、節 句祝いとして、私の母・市田ち か子が明治 40 年に祖父の關 藤次郎(奈良・依水園旧主)から贈られたものです。
 市田ちか子は明治38年生まれで、市田弥一郎(京都・對龍山荘旧主)の内孫でもあります。この雛人形は宮中で行われた行事の「曲水の宴」を再現した平飾りで、台座は横幅3.6メートル 、奥行0.8メートル位の大きさです。お雛さまは文京区の自宅母屋につながる鉄筋コンクリートの蔵にありました。それを座敷に飾るときには、幼い私は川辺に草花を挿し込み、美しいお庭のお雛さまをいつまでも見ていたものです。
 家屋は戦禍で焼けましたが、この蔵だけは逃れ、お雛さまは無事でした。戦後に建て直した母屋には広間がなく、私がお雛さまを楽しめたのは昭和15年が最後かと思います。両親と私たち娘はお雛さまがお悲しみではと気がかりでしたが、歳月は過ぎ、私は80年ぶりに再会が叶いました。
 平成30年、お雛さまのお里ともいうべき依水園の母屋で 「曲水の宴」にお会いし、優雅 さに感嘆しました。気品に満 ちたお人形は嬉しそうで、精緻な楽器からは音色が聞こえそうでした。背景の桜の精巧な造花にも感銘を受け、立ち去り難い思いでした。
 「曲水の宴」をご覧になった方々から「關藤次郎の高い教養と美意識の一端、そして内孫のちか子への深い愛情が分かり、心豊かになりました」とお聞きしております。
 春には、依水園へお越しになり、実際にご鑑賞していただければ幸いに存じます。
※特集・おでかけ情報欄参照



■おでかけ情報


 時節柄、あらかじめお確かめの上お出かけください。定休日が祝日のときは翌日が休みとなることなどもあります。

●ひなまつり 端午の節句
開催中〜2/27(月) 11:00〜18:00 水曜定休 入場無料 ギャラリースペースM(志木市本町1-2-2) 048-474-8486 ※作家多数参加
※2/16(木)〜21(火)は「ピンクカワイイ展」開催

●みんなの校歌−練馬区編
開催中〜3/21(火・祝) 9:00〜18:00 月曜休館
観覧無料 石神井公園ふるさと文化館 練馬区石神井町5-12-16 03-3996-4060

●ボタニカルアート展
〜牧野富太郎の愛したまち大泉〜
開催中〜3/31(金)
※大泉学園駅周辺107店舗で牧野富太郎博士や牧野記念庭園ゆかりの画家たちが描いたボタニカルアートレプリカを展示 03-3991-2241練馬区商店街連合会

●ギャラリー展示「朝霞の神社と古事記のおはなし」
開催中〜6/4(日) 9:00〜17:00入館無料 朝霞市博物館(岡2-7-22朝霞台駅15分) 048-469-2285

●第35回「ねりま漬物物産展」
2/3(金)・4(土) 10:00〜19:00 ココネリ3階(練馬駅北口1分) ねりま本干沢庵・べったら漬・はりはり茶漬など 03-3995-6601練馬漬物事業組合

●江戸刺しゅうの世界
2/3(金)〜5(日) 10:00〜19:00(5日17:00)
要予約 きもの処つるや(新座市片山2-12-13)
048-481-0281

●依水園のひなまつり
2/8(水)〜3/5(日) 9:30〜16:30 1200円(庭園を含む) 火曜休園 名勝依水園主屋内(奈良市水門町74)0742-25-0781 isuien.or.jp
※エッセイ・特集参照

●牧野富太郎生誕160年記念特別展
【巡回展】拝啓 牧野富太郎さんへの手紙
2/11(土・祝)〜3/31(金) 9:30〜16:30 火曜休館 入場無料 牧野記念庭園記念館 練馬区東大泉
6-34-4(大泉学園駅南口5分) 03-6904-6403
※3/18(土)〜31(金)は小説『ボタニカ』(朝井まかて著・祥伝社)の表紙やカバーに使われた村上千彩作の銅版画を展示

●映画「湯道」
2/23(木・祝)〜 T・ジョイSEIBU大泉ほか
出演/生田真斗 濱田岳 橋本環奈

●染の小道
2/24(金)〜26(日)
会場/大江戸線・西武新宿線中井駅周辺 
※永原リタ・バティック工房(保谷)も出展

●本と絵画の800年 
吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション
2/26(日)〜4/16(日)10:00〜18:00 1000円 
月曜休館 練馬区立美術館(中村橋駅3分)
練馬区貫井1-36-16 03-3577-1821

●フランス音楽の夕べ
上田晴子&ジャンミッシェル・キム(ピアノ二重奏)
3/3(金)19:00 4000円 大泉学園ゆめりあホール 03-3978-6548スピカ

●ケルティックハープとフィドルの響きで感じる
ケルト・北欧音楽の世界
3/11(土) 13:30  1000円 ふるさと新座館出演/松岡莉子(ケルティックハープ)・野間友貴(フィドル) 048-478-4523

●ちひろ 光の彩(いろどり)
3/18(土)〜6/18(日) 10:00〜16:00月曜休館 冬季休館有1000円 ちひろ美術館 下石神井4-7-2 (上井草駅7分) 03-3995-0612

●演劇「グッドラック、ハリウッド」
3/29(水)〜4/9(日)14:00(5日19:00) 5500円(当日6050円) 下北沢・本多劇場 03-3557-0789(江古田・加藤健一事務所) ※作/リー・カルチェイム 訳/小田島恒志 演出/日澤雄介分 キャスト/加藤健一 関口アナン 加藤忍

●児島壽美滋&藤田三保子二人展
4/1(土)〜30(日) 9:00〜17:00(最終日12:00) 木曜定休 入場無料 結城蔵美館(茨城県結城市結城1330 0296-54-5123) ※藤田氏は練馬区在住。土・日在廊

●立川志らくの噺
4/6(木) 14:00 4000円 和光市民文化センターサンアゼリア 和光市広沢1-5 048-468-7771 ※大泉在住の落語家
 
編集後記 新座の記者クラブで出会った朝日新聞記者渡部薫さんが現在編集長を務める「週刊朝日」が今年5月で休刊とか、とても残念です。渡部さんとは地元の情報発信を共有するなど短期ながら交流させていただきました。今後ご活躍をお祈りします。


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