■特集 


祖父・渋沢栄一と私
 私は徳川家康、ではなくて渋沢敬三です。渋沢栄一の嫡男の長男、つまり孫ですな。祖父が一万円札になるとか。そこで大河ドラマ『青天を衝け』の主人公渋沢栄一を家康とは違った観点で述べてみようと思うんだが興味はおありかな?練馬、新座、保谷にも少しばかり関係していることでもあるし…。

日銀グラウンド
 私は動物学者になりたかったんだが、祖父に懇願されて東京帝国大学経済学部に進学した。卒業後は横浜銀行などを経て1944年に第16代日本銀行総裁に就任。日銀といえば石神井公園の近くに日本銀行の運動場があったね。開設されたのは私が総裁になるちょうど10年前だ。それが今は練馬区立石神井松の風文化公園というんだそうだね。時代は変わった。しかし、クラブハウスが活用されているのは何よりだ。内部装飾にも往時の面影を残しているそうじゃないか。ふるさと文化館の分室にもなっているんだね。

練馬は板橋区だったので
 祖父栄一が明治初期に困窮者、病人、孤児、老人、障害者を保護する「養育院」をつくったことは有名な話だろう。創設は弱冠35歳のとき。廃止論の逆風をはねのけながら亡くなるまでの半世紀にわたって院長を務めた。福祉事業の先駆けといわれているね。養育院が現在高齢者のための医療や研究を行う東京都健康長寿医療センターとなっているのは、91歳と長命だった栄一にちなんでいるのかもしれない。センター内に渋沢記念コーナー、敷地内には大正末期制作の栄一像もある。所在地は板橋区 。練馬区はその昔、昭和22年まで板橋区に編入されていたのだから、そうした見地からすれば養育院の話もまんざら練馬と関係がないこともないだろう。
 それから大泉学園の「学園」は一橋大学誘致の名残だが、もし誘致が成功していたら栄一が創立に関与した大学だけに大泉学園も話題になったに違いない。祖父は実業界の重鎮というだけでなく、民間レベルでの外交、社会事業や教育に力を注いだ人だった。私も背中を見て育ったわけだが…。

「電力の鬼」といえば松永安左エ門だが
 渋沢栄一が関係した電力事業は数多い。世界に遅れることなく電力業の発展に力を注いだのも栄一だ。「商売というものは一人一個の力では盛んにできないのだから、西洋の『共力合本法』を採用するのが急務」として自ら野に下り、商工業に携わる者の意識高揚を図り、殖産興業に尽力した。特に、電力産業は「先覚的実業人による東京電灯」「大阪財界による大阪電灯」「京都市民の出資による京都電灯」「旧尾張藩士族による名古屋電灯」など地域性の特色を持つ民間人による私企業として発足。電力産業の黎明期における「合本法」の果たした役割は大きいのだ。先鞭をつけたからこそ松永安左エ門らの後継発展につながったともいえるだろう。栄一は「資本主義の父」と評され、著書『論語と算盤』にもあるように、日本の近代化においては献身の生涯であった。
 ところで松永安左エ門は栄一が養育院の院長就任の年に生まれている。祖父からすれば息子、私からすると親の世代。彼は新座市にある茶室「睡足軒」で茶をたしなんだ茶人耳庵(じあん)としても有名だね。新座の平林寺に墓がある。私と祖父栄一は谷中霊園に眠っているよ。

藍玉と屋外ミュージアム 
 動物学者になりたかった私は学究の道捨てがたく、財界人として活躍する傍ら柳田國男と出会ったことにより民俗学に傾倒することになる。港区三田の自宅に、収集した動植物の標本、化石、郷土玩具などを収めた博物館をつくり「アチック・ミューゼアム(屋根裏博物館)」と称した。
 栄一の深谷の実家が藍玉生産農家であったように、保谷にも藍玉で富を築いた高橋源蔵という人物がいた。その孫源太郎は昭和初期に私邸「保谷御殿」を築き、文化サロンとして機能させた。源太郎の息子で私より7歳年長の文太郎は民俗学に専心し、昭和初期に私と出会ってからは保谷に約1万坪の土地を確保し、私を含む仲間とともに日本初の「国立民族学博物館」の開設を目指したのである。保谷駅の南側に、野外施設、研究所、展示棟を備えた日本初のスケールの大きなオープンフィールドミュージアムができるはずであった。実現したらどんなにすばらしかったことだろう。しかし民族学博物館は開館したものの戦争やその他の事情も重なって計画は縮小、野外ミュージアム構想は幻となってしまった。外国の民族学者が羽田に着いて真っ先にタクシーで乗りつけるのが「保谷」だった時代は過ぎ、跡地付近には看板が立つばかりだ。
 民具等は大阪万博公園内の国立民族学博物館に引き継がれ、アチック・ミューゼアムこと常民文化研究所は神奈川大学に移管された。野外展示物の一つ奄美の高倉は、小金井公園の江戸東京たてもの園に移され来園者に親しまれている。
 ところで、三田の渋沢邸は青森県の古牧温泉渋沢公園に移築されていたんだが、清水建設の潮見イノベーションセンター(江東区)に再移築することに決まった。東京に戻ってくるのは喜ばしいことである。現在は完成を待っている。なお、私の事績については祖父の業績とともに北区飛鳥山公園の渋沢史料館で紹介されている。

保谷の文理台公園
 私は小・中・高と今でいう筑波大附属校で学んだ。筑波大の大元は東京文理科大学で、その運動場だったことから文理台の名がついたのがこの公園だ。明治から昭和にかけては大学の農場があり、私の動物学への憧憬はこの地と無縁ではないだろう。文化人としての活動と保谷は切り離せないと思っている。農場の一部は筑波大学附属小学校保谷田園教場としてまだあるらしい。公園はソメイヨシノやシダレザクラの名所にもなっているそうだよ。
(以上、本特集は事実に基づき編集部が脚色したものです)

【ぶんか情報】 ※確かめてからお出かけください
猫の絵描き高橋行雄展
開催中 4/7(水)まで 入場無料 
11時〜18時 木曜定休
オリエンタルハート(石神井公園駅4分)
03-3996-7419

電線絵画展―小林清親から山口晃まで―
開催中 4/18(日)まで 1000円
10時〜18時 月曜休館
練馬区立美術館(中村橋駅3分)
03-3577-1821

桜 太田洋愛
4/3(土)〜5/16(日) 入場無料
9時〜17時 火曜休館
牧野記念庭園記念館(大泉学園駅5分)
03-6904-6403

石神井城 中世豊島氏ここにあり
4/3(土)〜5/30(日) 観覧無料
9時〜18時 月曜休館
石神井公園ふるさと文化館
(石神井公園駅15分)
03-3996-4060

村治佳織&村治奏一 ギターデュオ・コンサート
4/4(日) 14時 5000円
和光市民文化センターサンアゼリア
(和光市駅13分)
048-468-7771

藍染展
4/8(木)〜13(火)  11時〜18時
(志木駅17分)
048-474-8486
100パーセントの藍染。上着・スカーフ・抗菌作用のあるマスクなどを展示販売

映画「いのちの停車場」
5/21(金)よりロードショー
原作・南杏子 監督・成島出
出演/吉永小百合・松坂桃李・広瀬すず
エンディングテーマ/村治佳織
T・ジョイSEIBU大泉ほか
製作総指揮を務めた岡田裕介氏最後の作品

【予告】
指笛演奏チャリティーコンサート
8/22(日)〜26(火) 13時  入場無料
清瀬けやきホール(清瀬駅3分)
指笛演奏/村山壮人ほか
090-2208-8280

詩人・松永伍一の戯画
&大野忠雄のアイルランドの世界展
10/21(木)〜26(火) 
スペースM(藍染展の項参照)

【地域情報】
〈片山富士〉

 新座市法台寺にある疑岳富士が市の文化
財に指定され、一般登拝が可能になる。江戸
時代の「丸吉講」信仰の名残。問合せは新座
市生涯学習スポーツ課へ
048-424-9616

〈編集部イチオシ〉
金吾堂の「スパイス香るこく旨カレーせん」
ナイル商会(練馬)のインデラカレーを使ったスパイシーなおせんべい。期間限定販売
1袋190円(税込) サミットほか

〈閉店のお知らせ〉
・華樓(2020年8月31日)
・ポラン書房(2021年2月7日)
・ふな与(2021年3月31日)
※プチぶんか村への応援に深謝申し上げます
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■メッセージ 


NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』(2022年春から放送)の脚本を担当する羽原大介さんより
「前回(マッサン)が北海道、今回が沖縄、日本最北端と最南端の朝ドラを担当させていただくことになりました。前回はウィスキー、今回は沖縄料理です。
『日本復帰50周年』と言われた時は身構えたけど、1972年前後の沖縄を改めて学び、取材を重ねるうちに、プレッシャーはモチベーションへと変わりました。いつの時代、どこにいても、人々がその環境で精いっぱい生きる姿は同じと思えたからです。
このドラマが放送される頃、世の中がどうなっているか全く予想できませが、例えどんな激動の時代でも、人は食べ、学び、働き、遊び、恋をして、夢を見て、挫折して、じたばたもがき、明るい明日を信じて眠ります。
毎朝ドラマを見て下さる皆さんが、『今はちょっとしんどくても、コツコツやってれば明日はきっといい日になる』、そう思ってもらえる物語を、信頼するスタッフや出演者の皆さんと共に、じたばたと紡いで行ければと思っています。」

※ぶんか村エッセイ#118参照


■Supporters